2013年7月4日木曜日

5:クッキーのはなし<後編>: THE STORY ABOUT COOKIE



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クッキーと初めてエッチした日の朝。

桜満開の公園で偶然子どものデモ隊にあった。

学校の春休みを利用して、
いろんな学年の子たちとちょっとの大人で
デモ隊が結成されたようだ。

みんなおのおのの主張を書いたプラカードを持って
こちらに行進してくる。



学校なくなって!
毎日夏休みがいい!
スパゲッティー死ぬほど食べたい!
犬が飼いたい!
透明になりたい!
ジャニーズのコンサート行きたい!
家の前ディズニーランドになって!



などなどそれぞれ自由を勝ち取るために真剣である。

わぁわぁいってる子ども達、
特に、透明になりたい子が大きな声で 

透明になりたい!
と叫んでる

クッキーが、
そんなこと言ってるおまえは透明になっちゃえばいいのにねw 

とつぶやく

デモ隊の行進を見送って、ふりむくと、
ジャニーズのコンサートに行きたい!
のプラカードの裏には、

縄文時代に行きたい!

と書いてあった。


その瞬間風がワッとふいて桜の花がいっきに舞ってあたりはさくらいろに

そして、

古すぎる想像もできない哀愁も感じることもできない過去は、

いつだってまだ知らない未来と同じくらい新しい、
もちろん子どもたちにとっても、

と悟る


そして時は飛んでここは今から約1年後の、
2044年の新年・

去年40センチ積もった雪は今年は100センチになった。

気象庁は研究者や専門家を出してきて、

にわかに地球がまた、
氷河期にさしかかっている可能性がある・

とわたしたちに伝えた。


前に地球が氷河期にさしかかった時、
恐竜達は何を思っただろう。

頭の中で広がった:

氷河期にさしかかった恐竜の世界:

には2匹の石頭のパキケファロサウルスの
オスとメスがいて、

ふたりは古いカセットウォークマンで
音楽を聴いているようだ。

イヤホンを片方づつ半分こして耳に入れて、
少しいつもより肌寒い秋の森の中でふたりがきいているのは今から83年前の1961年の往年の名曲。

Stand by meだった:


When the night has come
And the land is dark
And the moon is the only light we see

夜になってあたりは暗くなって月明かりしかみえなくても

No, I won't be afraid 
Oh, I won't be afraid
Just as long as you stand stand by me, 

僕は怖くない怖くないよ
君がいてくれれば君がそばに いてくれさえすれば

So, darling darling  Stand by me 
Oh stand by me 
Oh stand 
Stand by me 
Stand by me
 だからダーリン ダーリン
そばにいてほしいそばにいてほしいそばにいてほしいそばにいてぼくのそばにいて
If the sky that we look upon Should tumble and fall 
Or the mountain Should crumble to the sea
もしもこの見上げてる空が崩れ落ちてきてもそれともこの目の前の山が崩れて海になったとしても 
I won't cry, 
I won't cry 
No, I won't shed a tear 
Just as long as you stand stand by me
ぼくは泣かない
泣いたりしない涙なんかひとつぶも流さない
君がそばにいてくれさえすれば
Darling darling  Stand by me 
Oh stand by me 
Oh stand now Stand by me Stand by me
だからダーリン ダーリン
そばにいてそばにいてそばにいて
ぼくのそばにいて

Darling darling 
Stand by me
Oh stand by me
Oh stand now
Stand by me
Stand by me

ダーリン ダーリン
そばにいてほしいそばにいてほしいそばにいてほしい
ぼくのそばにいて


オスのパキケファロサウルスがメスのパキケファロサウルス

(同じハゲ頭だけどメスはピンクのリボンをしている)


のほっぺにチューをして

ふたりは頭をグリグリしあってから、
寝床の羊歯の葉が敷きつめられた穴ぐらに入って行った。

その夜はきっとわたしがクッキーに会った日のように、
月が大きくて赤く明るく・

火星が最も地球の近くまで来た日だったのかもしれない。

**

あれはまだ23歳くらいの7月頃、
東京が新しいビジネスを始めるといいだした。

火星の中学生の、地球への修学旅行の斡旋
だという。

NASAから極秘で請け負ったこの仕事は、
まだ国家情報として機密に進められているため、
独占状態であり大もうけできる案件だという。

へーどんな仕事なの?
ときくと、

いろんな地球上の都市を、
そのまま展示作品として見せる

のだという。

都市というものは地球人が
地球上に様々な紆余曲折・思想・欲望
の元造り上げられた、
もはや巨大な芸術作品と言っても過言ではなく、

その中で様々な出会いやドラマも産まれる

もはや

超巨大体験型
インスタレーション的
劇場タイプ
芸術作品

である
と東京は断言した。

たまたま名前が東京だからさー
そのプロジェクトの東京担当に指名されたんだー
がんばろー

と言って東京は材料買い出しに私を付き合わせた。

ふらっと入った池袋の無印良品で
東京が買ったものは1冊のノートで、
これだけ手に入れば大丈夫・といって店を出た。

国家機密プロジェクトにしては安上がりすぎるけど、
どういうわけかきくとつまり、
このノートを芳名帳として
東京駅の前のよく分かる場所においておくらしい。

するとこの
大東京展示作品
を地球人には知れず訪れた火星の中学生が、
このノートに感想を書くそうだ。

帰りに山手線で東京駅まで行って、
駅前の古い電話ボックスの中にノートを置いて
その日はわたしたちは家に帰った。
そしてこれがその2週間後、
火星の中学1年生によって芳名帳に書かれていた、
東京
という展示作品に対する感想だった:




このまちはだれもおどろかないまちだから。
人が見てもすごいと思う
まちをつくったほうがいいとおもいます。

(ちょっとはまぁーすごいとおもうのは人それぞれなので)

とうきょうにきた人たちが
おどろくまちをたくさんつくったほうがいいとおもう。
人になんかつけたらみんななんだこれとおもって
きょうみがある人がふえるとおもうから、

入るから、

そのためにはこのとうきょうを
カラフルとオリジナルのまちにしたらいいとおもう。

わかったかとうきょうくん。

もっとカラフルにしてとうきょうをどうぶつえんかゆうえんちに 
バカみたいな
みらいなところにしたらいい

(中1、火星)




パキケファロサウルスの挿絵:うっすん
東京の感想文:たつや